真鍮とサビの関係、そのメカニズムと経年変化

真鍮とサビの関係、そのメカニズムと経年変化

金属のサビや黒ずみ。それは一般的に、劣化の象徴として扱われる傾向にある。しかし、場合によってはその経年変化が歴史を感じさせ、印象を損なうどころか魅力を増していく場合もある。そんな素材のひとつが、真鍮だ。

この記事にたどり着いた人のなかには、真鍮のサビを落としたいと思って訪れた人もいるだろう。そんな人には遠回りの内容になってしまうかもしれない。それでも、真鍮の歴史や素材のメカニズムをたどることで、綺麗に磨くだけではない真鍮との付き合い方を知り、より愛着を持って接することができるようになるはずだ。

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歴史に見る真鍮の用途

真鍮の歴史は長い。一説では紀元前4000年ごろから使われ始めたとされ、古代ローマ帝国では貨幣として、また、中国では仏像を造る材料などに重用された。その後、15世紀から始まる大航海時代には、船舶用の道具に用いられたことをきっかけに実用金物として市民権を獲得していく。

現在は、給水管や金管楽器、模型、薬きょう、仏具、建材、硬貨など、身近なものに見られる真鍮。金属のなかでは錆びにくいうえに、安価で加工しやすく、強靭であることから、多くの用途で使われている。また、インテリアやアクセサリーにもよく採用されているのは、耐久性もさることながら、流行り廃りのない素材であることも理由のひとつだろう。

真鍮のメカニズムから黒ずみ・サビのデメリットを考える

錆びにくいとはいえ、真鍮も使っていくと徐々に黒ずみやサビが出てくる。それらを経年変化として楽しめるのが、真鍮がもつ最大の魅力だ。「サビ=劣化」のイメージを払拭するために、サビのメカニズムから解説していきたい。

黒ずみやサビの原因は空気や汗

黒ずみもサビも正体は同じで、真鍮に含まれる銅の酸化によって生まれる。空気中の酸素と反応して酸化が進むと、銅の赤さが黒褐色に変化し、黒ずんでいく。さらに、酸素、二酸化炭素、水と、汗などに含まれる亜硫酸ガスなどの成分が反応することで、年月をかけて緑青色へと変化していくのだ。

真鍮のサビは劣化ではない

鉄はサビが進むと朽ちていく性質があるが、真鍮の場合、表面の酸化によるサビは保護膜の役割を果たし、むしろ劣化しにくくなる。また、長年にわたり緑青は毒であると言われてきたが、その説にも変化があり、昭和59年には厚生労働省(当時は厚生省)から、「緑青は普通物であり、毒性の程度はチーズやバターなどに使用されている合成保存料と同様である」と発表された。

すなわち、真鍮の黒ずみやサビを取り除くことは、機能面や安全面ではなく、見た目の好みや、長年使った真鍮の表情を一新するといった目的で行う、娯楽的なメンテナンスに近い。

真鍮の手入れで経年変化を楽しむ——サビ防止、サビ落とし、あるいは、錆びさせる

真新しい真鍮の落ち着いた金色も魅力的だが、黒ずみやサビが付いた真鍮は使用者の歴史を背景に持ち合わせ、新品とは違った味を感じさせる。手入れに関する正しい知識を得ることで、自分がイメージする仕上がりへと「真鍮を育てる」という新たな楽しみを得てほしい。

真鍮が錆びないようにするための手入れ

防錆剤を使わずに真鍮のサビを完全に防ぐのは困難だが、日頃の手入れによってある程度の予防ができる。

  • 使用後はなるべく早く汚れを落とす
  • たわしや磨き粉は使わない(傷が付くとサビの原因になる)
  • 洗った後はしっかりと水分を拭き取る
  • 湿気の少ない場所で、新聞紙などに包んで保管する

「銅の酸化」という原因から逆算すれば、どの方法も頷ける。酸素、二酸化炭素、水、汚れを遠ざけることが、サビの予防へとつながっていく。

真鍮の黒ずみやサビの落とし方——重曹・クエン酸を使う

真鍮の表情を変えるために黒ずみやサビを落としたい場合、次のような方法がある。

重曹の研磨効果でやさしく落とす

重曹は家庭内の掃除や、歯磨き粉にも使われる研磨作用のある成分である。優しく擦ることで、真鍮を傷つけることなく表面のサビや黒ずみを落とせる。完全には磨き切れないこともあり、使い込んだ風合いを残しながらサビを落とすことができる。

酢やクエン酸で表面を溶かす

酢やクエン酸といった酸性の液体には、サビや黒ずみだけでなく、真鍮そのものを溶かす作用がある。水100mlに対して小さじ1/2ほどを混ぜて作った液に30秒ほど浸け、柔らかい布などでしっかりと拭き取れば、表面が溶け落ちて新品のような状態に近づけることができる。

長時間浸けると本体まで溶けてしまうほか、表面に液が残ったまま使用すると酸化が進んで更なるサビの原因になってしまう。「薄めの液に」「短時間浸ける」ことに注意を払いつつ、浸けた後はしっかり拭き取る必要がある。

酸化を進め、真鍮を錆びさせる方法

また、サビの原因を知っていれば、真鍮をあえて錆びさせることは難しくない。

  • やすりで表面に細かく傷を付ける
  • 塩水に浸けた後、空気に触れる場所で放置する

上記のように、酸性の状態にしつつ、多くの面積を空気に触れさせることでサビは進んでいく。サビの程度を確認しながら好みの風合いに近づけるために、少しずつ試していくことを推奨する。

1点注意したいのが、黄色く光沢がある真鍮だ。ラッカー塗装が施されている可能性があり、その場合は削っても風合いを出すことはできない。まず剥離剤で塗装を落としてから、サビを出す作業を行う必要がある。

「道具を育てる」という楽しみ方

サビを防ぐ、落とす、あえて錆びさせる。もしくは、一切手を加えずに自然の経年変化を楽しむ。新品のような状態を保つことも、原型を留めないほど多くのサビを携えるのも、使う人の好み次第でさまざまな選択肢があるのが真鍮の魅力だ。自分だけの「色」や「味」、そして「歴史」を楽しんでほしい。

道具や素材のメカニズムを知り、育てていくという行為。それは、安心で安全な道具に支配されつつある現代人にとっては新鮮な行為であり、道具との付き合い方を見直すきっかけとなり得る。家にある真鍮の道具を手に取り、どのように育てていきたいか、思い描くことから始めてみてはどうだろうか。

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